煌めいて初恋

「ここまで送ってくれてありがとう」


「いいよ、散歩ついでだし」


「夜ご飯もご馳走になっちゃってごめんね。森本のおじいちゃんにありがとうって言っておいてね」


「ん、分かった」


すっかり日は落ち、正面の昴の表情も読み取れない。だが学校での冷めた目付きの感じはなく、声音も穏やかだ。


「じゃあ、また学校で」


昴が手を振ったので、楓も振り返す。


しかし、


「あれー?楓?帰ってるの?」


ドアが突然ガチャリと開いた。
振り返ると、今朝よりは小綺麗になった母がドアから顔を覗かせていた。


「お母さん!えっと…ただいま」


「おかえり〜。……ってあれ?あれあれあれあれ?」


母の視線が昴を捉えた。


「まぁ!昴くんじゃないの〜!久しぶりねぇ!で、今日はどうしたのかしら?」


目を爛々とさせた母はよそ行きの喋り方をしつつも興奮が抑えられないようで、語尾が上がっている。
昴をちらりと見ると、困惑したように少し顔がこわばっていた。


「お母さん、鬼島くん、森本のおじいちゃん家から送ってくれたんだよ」


仲介するように代わりに答えると、昴も調子を取り戻したようで「どうも、こんばんは」と礼儀正しく母に頭を下げた。


「あらまあ、こんなに暗いのにわざわざありがとうねぇ。それにお昼も夜もお世話になっちゃって申し訳なかったわあ。楓もちゃんとお礼言ったの?」


こういうところだけ無駄に母親ヅラをしてくる。こう言っちゃなんだが、母より自分の方がしっかりしているつもりだ。
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