煌めいて初恋
「待ってて、すぐお茶を淹れるから!楓、昴君を客間にお通しして!」
家に入るなり母は上機嫌に鼻歌を歌いながら昴と楓を客間に通し、自分はリビングへすっ飛んでいった。
「ほんとにごめんね。うちの母が強引に…」
「大丈夫だよ。楽しいお母さんだね」
昴は苦笑いをしつつも嫌そうな表情ひとつしていない。
「あ、ちょっとじいちゃんに連絡したいから電話して来てもいい?さすがに白波さんのお母さんから電話してもらうのも申し訳ないし、他に連絡しておきたいこともあるから」
「あ、うん。どうぞ」
客間から出ていく昴を見送ると、楓は深く息を吐いた。
母の強引さにはいつも骨が折れる。こうだ、と思ったことに一直線で動き出したらそれを止められる人は誰もいない。
それは長所でもあるのだろうが、身内は恥ずかしいものだ。
楓はそういえば、と視線をヴァイオリンケースに移した。
今日はまだ一度も楽器を触っていない。
梅雨明けで、湿度が下がっているから楽器に不調があるかもしれない。
母も昴もいない今のうちに確認を、と楓はヴァイオリンケースを開いた。
ヴァイオリンを取り出し、駒や魂柱の位置、表板の割れがないかなど一通り確認をする。
「よかった、大丈夫そう」
今日は梅雨が明けたおかげか、一段と表面のニスがツヤツヤ輝いている。まるで弾いてくれと言わんばかりに。
「ちょっとならいいよね」
楓は弓を張り、息を吐いた。