ココロ〜食べなきゃ幸せになれない〜

健太郎がそう言って見せてくれたのは、おいしそうに親子丼を食べている楓だった。その顔はとても素敵な笑顔だ。ここ最近は笑うことも辛くなり、表情筋は全く動いていなかった。

「楓ちゃん、人は食べなきゃ生きていけない。幸せになれないんだよ。楓ちゃんは太ってなんかいない。十分痩せてる。細すぎるくらいだ」

もっと自分を大切にして、このままじゃ死んじゃう、そう言いながら健太郎は泣いていた。楓の中で痩せたいという思いが崩れていく。あたし、たくさんの人に心配をかけてたんだ……。

「楓ちゃんが幸せになるならって諦めてた。でも、楓ちゃんが幸せになれないなら、僕が君を彼氏から奪う！」

楓は健太郎に優しく抱き締められる。浩二にだってまだ抱き締められたことがないのに、楓の胸には温かい感情が芽を出していた。

健太郎の優しさや真剣な眼差しを見るたびに、浩二がどれほど自分勝手な人だったのか見えてくる。そして、楓は決意した。