ドロ痛な恋が甘すぎて

 スタジオの鏡に映る弱々しい俺と目が合って、深いため息を漏らした時


「アヤセ、おはよ~」


 口裂け女並みに真っ赤な唇を塗り込んだ美女が、とびきりの笑顔のなぜかハイテンションでやってきた。


「マネージャー……おはようございます……」


 アミュレットのマネージャー蓮見(はすみ)さん。

 俺たちより5歳年上。

 黙ってニコニコしてさえいれば、かなりの確実で男が釣れる。

 でも本性はとんでもない。

 俺たちアミュレットメンバーには、ナイフみたいな切れっ切れの言葉で遠慮なく痛めつけてくる。

 女バージョンの魔王みたいな人。

 なぜ今、俺の目の前にいる女魔王様はすこぶるご機嫌なんだろう?

 いつもとの違いが怖い、怖すぎる。

 何かあると俺の危険信号が点滅を始めた時、魔王の影を一切感じない透明感のある声が俺の耳に届いた。


「単刀直入に言う。綾星、3日で歌詞作れる?」


「はい?」


「この前、綾星が作った曲あるでしょ? ギター弾きながら聞かせてくれた曲。あれに詩を当てられるかって聞いてるんだけど」


「誰が歌う用ですか?」


「綾星に決まってるじゃない」


「俺のソロってことですか?」


「そう、ギターを弾きながらステージで歌わせてあげる」


 マジで?

 俺一人で、ステージで歌わせてくれるってこと?

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