ドロ痛な恋が甘すぎて アミュ恋2曲目

 その日の学校の授業が終わり、ダンス練習も終わり、今はもう夜。

 実家の弁当屋の手伝い中。

 ぼんやりしながらテーブルを拭いていると、見覚えのあるイケメンがお店に入ってきた。

 あれってほのかの元カレじゃないか?

 ハイスペック御曹司の蒼吾(そうご)じゃん。

 隣には友達っぽいスーツイケメンを連れている。


 隠れなきゃ、今すぐに!

 あの御曹司に電話越しでほのかの彼氏役を演じたのは、間違いなくこの俺だし。

 ちょっとでもしゃべったら、俺の声ってバレるかも。

 『いらっしゃいませ』と言うのも怖くて、あわてて備品庫に逃げ込む。


 なんで俺、こんな狭い場所に逃げ込んだわけ?

 出られないじゃん。

 ほぼ動けねえ。

 御曹司たちが帰るまで。


 早く弁当買って帰ってくれ!
 
 そう心から願ったのに、普段の行いが悪すぎるせい?

 俺の悲痛な願いを神様はスルー。


 どうやら二人は、料理を注文してお店で食べていくようだ。

 席に着いた二人の会話が、隠れている備品庫まではっきりと聞こえてくる。


『蒼吾さ、なんでこの店なわけ?夕飯』


『だって食べてみたかったから……ほのかちゃんの好物……』


『だからさ、お前らの恋愛に俺を巻き込むなって言ったろ?』


『頼れる相手……伸也(しんや)しかいない……』


 ふーん、そういうことね。 

 ほのかの元カレの御曹司は、未だにほのかを忘れられなくて、オムライスを食べにこの店に来たってことか。

 さっきまで備品庫から逃げだしたかった。

 でも今は、蒼吾って御曹司の気持ちを知りたくてたまらない。

 俺は一言も聞きもらしたくなくて、備品庫のドアに耳をペタッとくっつける。
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