ドロ痛な恋が甘すぎて

 やっと息苦しい空間から逃げ出せる。

 そう思ったのに……


「広瀬、ちょっと来い!」


 大野先輩の威圧的な声が、私を部屋の隅に連行した。


「お前の作った資料、何これ」


「え?」


「数字、間違ってんだけど」


「ど……どこですか?」


「ここ!」


 本当だ、ここの数字が明らかに間違ってる。


「ごっ……ごめんなさい」


「お前さ、俺に恥かかせたいわけ?」


「そういうわけじゃ……」


「最近のお前、仕事なめてるだろ? マジで使えねぇ」


「今すぐ直して、新しい資料を持ってきます」


「大至急な!」

 「はい」


 数字を間違えたのは私。

 その資料を渡しちゃったのも私。

 だから責められるのはしかたがない。


 そんなこと、わかっているつもりなのに。


 悔しさみたいなものがどうしてもぬぐえない。

 涙が溢れてきそうになる。


 泣いたらまた怒られる。

 泣けばいいって思ってるんだろって怒鳴られる。


 だから涙がこぼれないように、唇を噛みしめ、激痛で涙を押し戻し……



 その時、私を包んでくれるような温かい声が、よどんだ空気を追い払ってくれた。

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