ドロ痛な恋が甘すぎて


「広瀬さんごめんね」


「え?」


「俺の都合でプレゼンの時間を早めちゃったせいだよね?」


「いえ……私のミスですので……」


「大野君のプレゼン資料って、いつも広瀬さんが作ってるの?」


「あ、はい」


「大野君のプレゼン評価が高いのは、資料が見やすいからでもあるって思ってたんだよね。だって広瀬さんが作る資料って、見る人のことちゃんと考えて作ってあるでしょ?」


「そんなこと……」


「あるよ。社長も見やすいって褒めてる。だから自信もって」


「……はい」


 蒼吾さん、助けてくれたのかな?

 私がミスしたから、フォローしてくれたのかな?

 付き合ってくれていた頃の蒼吾さんを思い出す。


 優しさで膨らんだ風船みたいな人だったな。

 懐かしくて、なぜか涙がまぶたに溜まる。


 午後になって部長にお願いされた。

 『今から資料室の整理を頼む』と。


 張り切って資料室のドアを開けた瞬間、固まってしまった。

 資料室の中、私を待っていたかのように蒼吾さんが立っていたから。

 とびきりの笑顔で。

 私が大好きだった、優しく包み込んでくれるような笑顔で。
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