ドロ痛な恋が甘すぎて
蛇のように絡まった苺の腕を払えないまま、俺の足はどんどんほのかへと近づいていく。
静けさが広がる路地に、苺のムダに通る声が響いた。
「綾くん、ハンバーグ作って」
「は?」
「だって苺、ハンバーグが食べたいの!」
「誰が作るかよ、お前なんかに」
「おとといはオムライス作ってくれたじゃん」
「苺がギャーギャーうるせーからだろ」
ほのかが俺の知り合いだということを、苺に悟られたくない。
だから、ほのかに視線すら送れない。
ウザったい甘々声は止まることを知らない。
「綾くん、明日のライブのあと二人だけでパーティーしようよ」
「なんの?」
「私たちの歌、初披露のパーティー」
「ムリ」
不愛想な声に俺の本心を詰め込んで苺にぶつけても、効果なし。
きゃははと嬉しそうに笑い、苺は飛び跳ねている。
ほのかとすれ違う時、少しの間だけほのかに視線を飛ばしてみた。
俺と会いたくない。
そう物語っているような苦しそうな顔で、じっと地面を見つめていた。
なんでそんな辛そうな瞳をしているわけ?
俺が苺と一緒にいることに嫉妬してくれてる?
そんなわけないよな……
俺に何か言いたいんじゃないの?
もう私のアパートに来ないでって。
御曹司と付き合うことにしたからって。
追い抜いたほのかとの距離が、どんどん離れていく。
マジで俺、これが正解?
ほのかの気持ちを確認するのも、俺の気持ちを伝えるのも、これが最後のチャンスなんじゃないの?
そう自分に問いかけた瞬間、俺は苺の腕を振り払っていた。
ほのかに向かって走り出したい。
振り返ろうとした時
「綾星……くん……」
背後から聞こえてきたのは、俺の神経をとろけさせるような大好きな声。