ドロ痛な恋が甘すぎて
空耳? 幻聴?
脳はまだ、ほのかの声だと信じていない。
でも俺の心臓は、確信したかのようにうるさく飛び跳ねだした。
ゆっくり振り返る。
そこには、今にも泣きだしそうな目をしたほのかが立っていた。
目の前にいる。
大好きでたまらない子が。
それなのに……
信じられなくて、予想外すぎて、ただ立ち尽くすことしかできない。
潤んだ瞳が俺の瞳とまじりあった瞬間、甘ったるい苺の萌えボイスが俺を現実に引き戻した。
「綾くんの知ってる人?」
「え……と……」
やべ。
苺になんて答えればいいわけ?
俺の好きな子。
片思い。
一方的に。
そんなこと苺には言えない。
悪魔綾星という弱みに加え、俺の一番弱い部分を握られてしまうから。
苺なら、ほのかのことも脅してきそうだし。
なんて答える?
俺の口、早くなんか言え。
苺の奴に怪しまれるから。
マジで早く!!
悩めば悩むほど、この場を切り抜ける正解がわからない。
考えれば考えるほど、テンパって頭の中がぐちゃぐちゃに。
「綾くん?」
つつくような苺の声に急かされ、俺の口は勝手に動いていた。
「俺の……いとこ……」
「……え?」
絶望が溶けたような声は、ほのかの口からもれていた。
遅れで襲ってきた、津波のような後悔。
俺はちゃんとわかっていたはずなのに。
『いとこ』という誤魔化し方は、ほのかを傷つけてしまうということを。