ドロ痛な恋が甘すぎて アミュ恋2曲目
☆ほのかside☆

 心臓のドキドキが抑えられない。

 サイン会が終わって、綾星くんの顔が見えない雑貨屋さんの中に逃げ込んじゃったけど、今もまだ私の心臓は落ち着かない。

 肌を突き破って飛び出しちゃうんじゃ……と心配になるくらい、激しく暴れたまま。


 肺が苦しい。

 息がうまく吸えない。

 吐きだすことで精いっぱい。


 体中から集めて、なんとか絞り出した勇気。

 消えかけそうなほどか細い勇気の炎を心に灯し、綾星くんのサイン会に行っちゃった。


 でも……
 
 迷惑だったよね……


 雑貨屋の目の前の棚に置かれている ピンクとブルーのマグカップを見つめながら、私は温度が下がらない右耳に手を当てた。

 綾星くんの吐息と一緒に吹きかけられた言葉。


『すっげー、会いたかった』


 その声に心臓が破裂しそうなほど膨らんで、体温が上がっていくのがわかった。


 私も会いたくてたまらなかったよ……


 素直な思いを伝えたかったのに。

 綾星くんに会うだけで勇気の炎なんてとっくに消えていて、何も伝えられなかった私。


 本当に私に会いたいって思ってくれたのかな?

 それともただのファンサービス?

 サインを書いてくれた人みんなに囁いた言葉だった?



 
 綾星くん、好きな人はいますか?

 苺さんとまだ付き合っていますか?


 綾星くんに聞きたいことが、泉のように湧き出てくるのに。

 聞けないまま、雑貨屋さんに逃げ込んでしまった。

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