ドロ痛な恋が甘すぎて アミュ恋2曲目
 
「別に……好きとか……」


「素直じゃねえな。若いころの俺にそっくりじゃん」


 うげっ、一緒にするな。

 でも……


「親父が今でも母さんに大好きって伝えること、俺の前でもお構いなしで、あれマジで勘弁って思ってたけど……」


「けど何?」


「ちょっと……憧れる……」


 俺もそんな風になれたらなって思う。

 大好きな人と結婚して。

 子供が今の俺みたいに思春期真っ只中で。

 生意気で。

 親の生々しい恋バナなんて聞きたくねぇって、耳を塞いでも。

 
 『お前のことが好きだ』って、かけがえのない人に言い続ける。

 そんな父親に俺はなりたいなって思う。


 って、マジで親父みたいな奴ってことじゃん。
 
 言えねぇ……

 『俺みたいになりたいんだろ?』って勝ち誇った顔をしてる親父に、そんなハズい言葉死んでも言えねぇ。


「何に憧れるんだよ?」


「なんでもない」


「言えよ綾星~」


「うぜーから、マジで離れろよ」


「あやせ~」


 殴りたくなるほどにんまり笑顔の親父。

 俺の腕をひじでピョンピョン突いてくる。

 その時、お客さんの来店を知らせるチャイムが、店の奥にも響いてきた。

 息子をいじるだらしない顔の親父が一変。

 キリリと眉を上げ、接客フェイスに切り替え、サッとお客さんの元へ。

 忍者かよ。


「あ、いらっしゃい」

 
 穏やかな親父の声につられるよう、俺は店の奥から接客スマイルを作って顔を出した。


 ……って、マジか。


 目じりが下がったまま。

 口角は上がったまま。

 急速冷凍並みに固まってしまった俺の表情筋。



 そりゃ固まるよな。

 レジの前に立っていたのは、マンガドロ痛の新刊を抱きしめた、ほのかなんだから。

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