ドロ痛な恋が甘すぎて アミュ恋2曲目


「ほのかちゃん、何か買いに来てくれたの?」


 親父のルンルン声に、ほのかの肩がビクリと飛び跳ねた。


 バカ! 

 ほのかって名前で呼ぶなよ!


 真ん丸な瞳をこれでもかって見開いて、ビックリしてるじゃん。


 ほのかはニコニコ顔の親父から瞳を逸らし、弱々しい声を発した。


「オムライス……ください……」


「は~い。今から作るからちょっと待っててね」


 でも次の瞬間、慌てるように顔の前で両手を振りだしたほのか。


「あっ、やっぱり今日はいいです。ごめんなさい。本当にごめんなさいっ」


 ほのかは親父に向かって思いっきり頭を下げると、店の出口に向かって体をひねった。

 ヤバい、帰っちゃう。

 それでいいわけ? 

 いいわけないよな。


 ほのかのこと…… 

 帰したくないし……


 頭の中に素直な声が響いた時には、すでに俺はほのかのところまで走り、手首をギュッと掴んでいた。


「あっ、綾星くん?」


「お前さ、どっちのオムライスが食べたいわけ?」


「……え?」


「親父が作っるのと俺の、ねぇどっち?」


 親父の目の前。

 大好きな子の手首を思いっきり掴んだまま、すっげー恥ずかしいことを口走っていると、自分でもわかっている。

 わかっているから余計に、二人に聞こえてんじゃないかって心配になるほど、俺の心臓が激しく飛び跳ねている。


「ほのかちゃん、俺のオムライスだよね?」


 人気俳優並みの顔面偏差値の親父が、大抵の女が落ちる紳士的スマイルをほのかに飛ばした。

 息子の好きな女に向ける笑顔じゃねーだろ?

 親父にイライラしながら、ほのかに目を向ける。

 その時、震えている桃色の唇が、はっきりと意志を宿した。
< 169 / 216 >

この作品をシェア

pagetop