ドロ痛な恋が甘すぎて

「僕に感謝してくれてるの? やったね~」


「春さ、欲しいもんとかないわけ?」


「ん?」


「一応……お礼……したいっつーか……」


「あやあやが、僕に何かくれるの?」


「高いものは無理だぞ」


「え? え? 何にしよう、欲しい物だらけだよ~」


 クリスマス前の子供かよって言うくらい真ん丸な目をキラキラさせて、春輝は何かを妄想中。


「僕、ドロ痛のマンガを全巻欲しいな」


「そんなんでいいの?」


「あ、やっぱやめた。ドラマ放映まで待つ!だってあやあやが演じるレイジ君、すっごーく楽しみだし」


「……」

「あやあや本当に言えるの? あんなドロ甘なセリフ?」

 
 春輝はニヤケ顔で、肩をぴょんぴょこぶつけてきた。


 う……言えない……

 ほのかの顔が真っ赤になるから。

 テレ顔が可愛すぎて、もっと俺にキュンキュンさせたいから。

 ほのかと二人だけの時は、レイジみたいなドロ甘なセリフを言っちゃうって。

 恥ずかしすぎて、この能天気な春輝くんには言えないなぁ。


「お前は見るな」


「え?」


「ドロ痛のドラマがテレビでやっても、春は見るな」


「やだよぉ」


「あ、大丈夫か。お前は10時には寝ちゃうもんな。お子ちゃまだから起きてられないし」


「その日は授業中にお昼寝しするから大丈夫だし」


 柔軟中の俺の背中を、ぽっぽこ叩く春輝。

 俺に恨みでもあるんじゃって程、叩く力が強くなってきた。


 そして突然、ほんと突然、背中の痛みが消えた。


「あやあや……」


 なんだ?

 今にも消えそうなかすれ声。

 さっきまでニコニコだった春輝とは思えない弱々しい声に、慌てて後ろを振り返る。

 そこには三角座りで膝の中に顔を押し込んだ、悲しげな春輝の姿があった。

< 213 / 216 >

この作品をシェア

pagetop