ドロ痛な恋が甘すぎて

「春、どうした?」


「さっき言ってたこと、ほんと?」


 は?

 さっき言ってたことって、どれのことだよ?
 
 弱りきった表情の春輝に、なんて声をかけていいかわからない。


「僕に言ったじゃん。お礼してくれるって」


「なにか欲しいものでもあるわけ?」

「……」


 何か言え。


 
 一分くらい続いた沈黙。

 耐えきれず俺が喋りだそうとした時、なんとか俺の耳に届くくらいの弱々しい声が聞こえてきた。



「奪って……きて」


「は?」


明梨(あかり)んのこと。みやちゃんから」



 ん?

 言葉の意味が理解できないんですけど。

 俺の脳、ネジが全部溶けちゃったんじゃ?


 急に回転が遅くなった脳で、春輝が俺に言った言葉をかみ砕く。


 『奪ってきて』

 『明梨んのこと』

 『みやちゃんから』



 はぁぁぁ?

 俺の聞き間違え?

 そうだよな。

 誰かそうだと頷いてくれ。

 

 急いで春輝に視線を戻す。

 変わらず三角座りのまま、顔を膝の間に隠している。


 もしや春輝は、明梨ちゃんのことが好きなのか?


 ちょっと待った!

 さすがに奪えない。

 やっと初恋が実り幸せをつかんだ雅から、明梨ちゃんをなんて。

 俺には絶対に無理。
 
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