ドロ痛な恋が甘すぎて

 暗い闇の中に引きずりこまれていく俺の心。

 泥沼に浸りきった俺を明るいステージの上に引き戻してくれたのは、へたれアイドルの雅だった。

 お客さんにステージの上で手を振りながら雅は俺の近づき、俺だけに聞こえる声をこぼした。


「俺……かっこよかった?」


「は?」


「明梨ちゃんに……がっかりされてないかな?」


 こいつ、マジでありがたい存在。

 ダメになりかけた俺に、いつもの悪魔綾星に戻すきっかけをくれるなんてさ。

 雅はそんなつもり、100%なかったと思うけど。

 利用させていただきます。
 
 へたれ綾星にならないために。


 心の中で『雅サンキュー。あと、ごめん』と呟き、俺はアイドル笑顔をキープ。


「最後のキメ台詞、噛んだよな?」


 俺のささやきに、ずーんと肩を落とした雅。


「バレてた……?」


「当たり前だろ。何年オマエのセリフを聞いてきたと思ってんだよ」

 
「セリフ噛んだこと……気づいたよね? 明梨ちゃんも……」


「多分な」


 笑顔が完全に消え、今にも楽屋に帰っちゃいそうな雅。

 うわっ、こいつ泣きそうじゃん。

 ちょっとイジリすぎたか、ごめんマジで。


「雅、明梨ちゃんがお前のこと見てるぞ」


 俺の言葉に雅の瞳に光が戻る。

 明梨ちゃんと目が合って、嬉しそうに微笑みを取り戻したし。

 雅って本当に単純な奴。

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