ドロ痛な恋が甘すぎて

 ライブにいなかったから、てっきり握手会には来ないと思っていたのに。

 いきなり目の前に現れた大好きな子。

 俺の心が急発進の超特急で駆け出して止まらない。


 と……とと……とりあえず何かしゃべらなきゃ……


 髪、バッサリ切っちゃったんだな。

 ショートもかわいいじゃん。

 って……ムリムリ。

 ファンの子が全て消えて俺とほのかの二人きりになったとしても、そんな恥ずかしいこと言えねぇし。

 バネでもついてんじゃねえのってほどいろんな方向に飛び跳ねている今の俺の心臓じゃあ、そんな甘い心の声なんて暴露できねぇ。

 とりあえずはファンの子たちに怪しまれないように、ほのかに何か言わなきゃ。

 そう思うのに焦りに焦り、なんて言葉を発していいかわからない。

 
 俺の脈、タッタカ飛び跳ねすぎ!

 俺の心臓、とりあえず落ち着けって頼むから。

 貴公子笑顔だけ、なんとかキープ。

 バクバク状態の俺の耳に、弱々しい声が降ってきた。


「私のこと……覚えていますか……?」


 ひぇ??!!

 おっ……覚えてるに決まってんじゃん!!

 ほのかに会いたくて、すげー会いたくて、この1か月どうにかなりそうだったし。


 でも本音を伝える勇気はゼロ。

 ファンの子たちもいる。

 なんとかごまかさなきゃ。
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