ドロ痛な恋が甘すぎて

「あやあやは……贅沢なんだよ……」


「は?」


「自由に恋愛……できるくせに……」


 いきなり陰った春輝の表情。

 さっきまで声を飛び跳ね笑っていた人とは思えないほど、瞳を濁している。

 この前も俺に見せたよな、その辛そうな顔。


 能天気モードの春輝には言いたいことをズバッと言えるのに、泣き出しそうに顔をゆがめる春輝には吐息すらかけられない。

 だってどんな言葉を口にしたって、お前のことを傷つけそうな気がするから。


「僕だって……」


 春輝なんだよ?


「本当は……」


 言えよ。
 
 お前が心ん中に隠してること、吐き出せよ全部。


 俺がそう思った時、スタジオの隅で柔軟をしていたはずのマトイが、慌てるように駆けてきた。


「春、ちょっと来い」


「マー君……」


「池の鯉に、えさやりに行くぞ!」


 無理やり春輝の腕をつかむマトイ。


 春輝は悲しそうな瞳のままコクリと頷く。

 マトイに引っ張られるようにスタジオを出て行った。

 
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