きみに想いを、右手に絵筆を
1.美少女に突然ファンだと告げられて
俺が白河 百合菜を好きになったのは、りんごが引力に従って真っ逆さまに落ちるぐらい、自然で当たり前の事だった。
*
「高平。お前また手ぇ抜いただろ?」
美術教師の蓼山先生こと、タデやんが美術準備室の椅子に腰掛けたまま深い溜め息を吐いた。
四時間目の終わり。美術部のもはや幽霊部員と化した俺は奴に呼び止められ、授業で提出した絵について駄目だしをくらっていた。
「いやぁ、実力ないんで……」
正直めんどくせぇなと思いながらも、俺は調子良く頭をかいた。
短めの黒髪に銀縁眼鏡を掛けたタデやんは俺をジロッと見たあと、「あのなぁ」とまた仰々しく嘆息し、肩を落とした。
「実力ない奴の絵をわざわざロビーに飾ると思うか? 二年前の美術展だったっけなぁ……。"あの絵"以来、お前さっぱりだろ?」
はいと頷くのも何となく癪で、俺は無言を貫いた。
そんな事は言われなくても分かってる。
と言うか、そもそもあれは"まぐれ"なんだ。頑張って描いた絵がたまたま当たっただけ。
俺にはアイツと違って才能なんて無い。
「親父さんの期待にも応えてやれ」
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