きみに想いを、右手に絵筆を
2.置いてけぼりの情熱ときみとのデート
『入選!? 和奏の絵がですか??』
興奮気味に電話で話す母さんの背を見て、気持ちが昂った。
『やったな!』と隣りに座った親父が嬉しそうに俺の背中を叩く。
高一の頃の記憶だった。まぶたの裏に過去の情景が意図せず映し出されていた。
『それでこそ、俺の息子だ!』
大きな手で親父にクシャッと頭を撫でられる。単純に認められたのが嬉しかった。
程なくして、新聞に美術展の絵が載った。
【入選。高平 和奏(16)父は高平画伯。親の七光か?】
途端に俺の目指す道が暗く窮屈なものになった。
『ほら、アイツ。一年のくせに』
『どうせ親父のコネだろー?』
部活の時間、キャンバスに向き合っているとコソコソと誰とも知れぬ陰口を言われた。
トイレ休憩で絵の前から少し離れた時、イーゼルに置きっぱなしの絵が刃物で傷付けられていた。
赤い絵具で"チョーシにのるな!"といういたずら書きもされた。
二度三度、同じ事が繰り返された。
悪質な嫌がらせに、俺のメンタルは血を流し、呆気なく悲鳴を上げた。
今までは"その存在"を指針として歩んできたのに、俺の夢を邪魔する存在として認識するようになった。親父が途端に疎ましく感じられた。
『親父のせいだ! アンタがいるから俺はッ!!』