きみに想いを、右手に絵筆を
 予想通りの締め括りに、今度は俺が嘆息をもらした。タデやんのひと言を甘んじて受け、小言はもう終わりと判断したので踵を返す。

「あ、それから高平!」

 呼び止められて足を止めると、タデやんは一枚のプリントを差し出した。

【美術展のお知らせ。テーマ:自由。〆切:5月18日】

「出さないよ?」

「やかましい」

 必要事項を目で読み取って、笑顔で拒否を試みるがすげなく一蹴される。

「描く描かないは自由だけど、最後だと思ってやってみたらどうだ?」

 いつまでたってもうだつの上がらない俺に、タデやんが期待してくれているのは分かっていた。

 けれど、正直それが重荷だった。俺は親父と違って出来損ないだ。期待されても困る。

 仕方なくプリントを手に会釈を残し、立ち去った。

 もう今さらなんだ。

 アイツという"壁"はきっと一生をかけても越えられない。

「まぁ、タデやんの言う事ももっともじゃね?」

 それまで廊下で俺を待っていたタツと杏奈が、さっきの話を聞いてアハハと笑った。

「で? 何描くんだ、美術展(これ)

 まだ描くとは言ってない。

「かっこ悪くねぇ? 今さら」

「そうか?」
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