きみに想いを、右手に絵筆を
 普段からかっこつけが板に付いた俺は、気怠げに頭をかいた。

 タツは野球が得意で、既にスポーツ推薦の話が来ている。正直そっちの方がかっこいいと思う。

「それに俺、絵描きってガラじゃ」

「そうそう、和奏(わかな)には似合わないよーっ」

 ニコニコしながら口を閉ざしていた杏奈が、不意に俺の右腕にスルリと手を絡めてきた。

 ……あの。胸当たってますけど?

「和奏、あたしと同じ大学(とこ)行くもんねー?」

 それはどうだろうか?

 女子に腕を組まれるのも満更では無いので、そのままにする。一応言っておくと杏奈は友達で、彼女ではない。

 美術室からの帰り、一階の自販機に寄ってジュースを買おうという話になった。

 階段を降りて、丁度ロビーに差し掛かった時。隣りのタツがピッと前方を指差した。

「なぁ、和奏。今回限りでいいからさ、あの子……」

「ん?」

 タツの人差し指の先を目で辿ると、ロビーに飾られた"過去の栄光"の前に、一人の女の子が立っていた。

「噂の美少女描いて?」

 え。

 「白ゆり」という言葉と同時に彼女が振り返る。

 その容姿を目にした途端、ドクンと心臓が震えた。
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