黙って俺を好きになれ
いつの間にか意識を手放していた。気怠さと疲労感に覆い尽くされて微睡みから醒め。幹さんの寝息を額にかかる距離で感じたのを、どこか絶望的な気持ちでまた目を閉じた。

幹さんは。決して自己本位で私を征服したりはしなかった。途中でバスルームに連れて行かれたときも、そのあとも。

ただ言葉と欲情で束縛して。命令しながら縋られた気がした。追い詰められながら、追いかけられていた。気もした。

・・・・・・私が本気で拒んだら、きっと帰してくれた。今ここにいる現実は自分が選んだことで誰の責任にもできない。

間違いだと分かっていてそれでも背を向けられない、このどうしようのない想いが愛なの・・・?胸の内で深く息を逃した。

夜通し声を上げすぎたせいか喉がひりついて、乾きも感じていた。重かった瞼をこじ開けると、隣りで眠る彼を起こさないように静かに躰を起こす。暖房が効いていて素肌のままでも寒くはない。

閉じきっていない10センチほどのカーテンの隙間から差す陽は白っぽく、日の出からだいぶ南寄りに傾いていそうな。

「・・・どこに行く」

「きゃあ・・・っ」

羽織るものを探そうと、ベッドからのそのそ脚を下ろしかけて片腕を引っ張られ、弾みでスプリングが軋んだ。あっという間に天井が真上に見える。
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