黙って俺を好きになれ
そのまま大きく口を開けた貝の中にでも引き摺り込まれるごとく、幹さんの胸元に逆戻り。きつく閉じ込められ、不機嫌なのか眠いのか声が重く聴こえた。

「勝手にいなくなるな・・・」

「・・・お水がほしくて」

少し困り気味に言うと、窮屈さが緩んでやっと顔だけ上向きに。気怠くこっちに横目を流した幹さんは空いた手で無造作に前髪を掻きあげ、「俺が取ってきてやる」とやおら上体を起こした。

「他の女にはしてやる気にもならねぇが」

大きな掌が思いきり私の頭をくしゃくしゃに掻き回して、人が悪そうに笑んだ気配。床から拾い上げたバスローブを羽織り寝室を出て行く。・・・どう喜んでいいところなのか。複雑な心境の私を残して。

しばらくしてペットボトルを手に戻った幹さんは、水を飲ませてくれた口移しの唇を下に下に這わせていった。もう無理だと懇願したのにそういう時ほどあなたは優しく、私をあやす。

自分で沈んでいるのか。
溺れているのか。

罪なのか。
愛なのか。

狭間を漂い、熔かされて。躰は言いなりになっていく。



・・・追いつかないココロを置き去りに。



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