黙って俺を好きになれ
「あの、つかさ、さん・・・っ?」

大人になって膝の上に抱っこされるなんて。羞恥の度合いがさっきと違いすぎる。

腰に腕が回され、斜め向きで乗っている分、彼を少し見下ろす体勢で密着している。ベッドでそれ以上のことをされているのに理性がまともなせいか、今すぐ逃げ出したいくらいだ。狼狽えて目も合わせられない。

「お・・・降ろしてくださ、い」

「このまま押し倒されるのと膝の上とどっちがいい」

そんな二択、聞いたことがないです・・・。

「もうすぐ山脇が来る。啼き声を聞かせてやるか?」

幹さんが面白そうに口角を上げてみせ、観念して無になろうと石になっていると。

「イトコ」

次は私からキスをしろと妖しく迫る。これは一体なんの罰なのかと半分涙目になりながら恥を忍んで顔を寄せ、形の良い薄めの唇に自分の唇を押し当てて。

1,2,3,4,5。脳内でカウントをし離れようと思った矢先、頭の後ろを捕まえられた。刹那。口ごと食べられてしまう。・・・どうにもやっぱり幹さんの思う壺。

「映画でも行くか」

私の口許を指で拭いながら幹さんが薄く笑んだ。

「お前が観たいのに付き合ってやる」

それってデー・・・。

「この俺がそこまでしてやる女は、後にも先にもお前だけだ。憶えておけ」

不敵そうに言っても眼は優しかった。・・・嘘なら見抜けた。私だけだと言ってあなたは、けれど知らない誰かと結婚をする。終わりしか見えないのにどうして。

胸の中で呟き、曖昧に笑み返すほか無かった。




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