黙って俺を好きになれ
6-1
首に幾つも残された紅い痕を、リボンタイのブラウスや髪型でどうにか隠しつつ出社した月曜の朝。更衣室では「おはよ~糸子」と半分眠そうないつものテンションで私の後ろを通り過ぎたエナ。

毎日のことだからあらたまって約束することもなく、お昼休みになって3階の休憩室に行くと。ずい分と端のテーブルに席を取った彼女が一人、スマホを手にする姿が目に映った。筒井君のことでわだかまりが消えないままだったら、もしかしたら他のグループに雑ざっているかもしれないと心細い想像もしていたのだ。

「お待たせ」

声をかけ向かい側のイスを引く。と。エナがすぐさま神妙な面持ちでこっちを窺う。

「金曜はごめんね?ちょっと八つ当たりっぽかったよね、あたし」

「・・・ううん大丈夫」

首を横に振って笑んで見せると安心したように、ほっと息を逃す仕草で。電子レンジで温めたコンビニパスタのふたを取り、プラスチックのフォークに麺を絡めながら少し声を潜めた。

「筒井なら糸子にオススメかなって思ってたからつい?初彼氏の相談も聞くし、なんでも言って?」

「うん。・・・ありがと」

「で、先輩だっけ?仕事なにしてるの?実家暮らし?写真ある?」

エアー弾丸がパチッパチッと顔に当たっては落ち当たっては落ち、私が一つも返せないうちに次々とエナの口から飛び出してくる。

「取りあえず女をサイフにする男はナシだから。あとエッチのあとすぐ帰るとか、しょっちゅうSNSやってるのとかはゼッタイ信用できないからね?それから、あ、ドタキャンする男と、やたら飲み会が多いヤツは100(パー)浮気する!」

力説に思わず瞬き。経験値によるデータならかなり説得力がありそうな。
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