黙って俺を好きになれ
『たまにはイトコから声を聴かせろ』

聖なるバレンタインの夜。耳に当てたスマホ越しの低い声は少し不機嫌だった。
着信があったのは、弁護士もののドラマを見終え、そろそろお風呂の準備でもっていうタイミングで。

『それとも俺以外にチョコをくれてやる大事な男でもいたか?』

車の中なのかどこなのか、雑多な音が邪魔することもなくダイレクトに伝わってくる威圧感。上から目を眇めている表情がありありと瞼の裏に浮かぶ。幹さんの口から“チョコ”っていう単語が出てきて意外だった。恋愛的なイベントに関心があるとも思ってなかったから。

「いないです。・・・電話は遠慮してました、けど」

『お前は俺の女だろうが。余計な気を回すな』

機嫌が斜めを向いたままの気配。もしかして待ってたとか、・・・私の電話を。だとしたら少し自惚(うぬぼ)れたいかもしれない。

「あの幹さん」

『なんだ』

まだ素っ気ない。

「今度の週末は会えますか?・・・渡したいものがあって」
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