黙って俺を好きになれ
甘いものはそれほど好きじゃないと聞いた憶えがあったし、チョコレートは買わなかった。恋人に何を贈るかを検索して無難にネクタイに決めたけど、お父さんへのプレゼントとは段違いに迷って悩んだ。・・・あの頃伝えられなかった想いと、また会えた今の気持ちの分。

『なら土曜の夕方、迎えに行くから待ってろ。昼間は野暮用がある』

不本意そうでも機嫌は戻った風に聴こえた。

『イトコ』

「はい」

『・・・早く俺のものになれ』

甘さを滲ませ、じゃあな、と終わりはあっさりしていた。バレンタインは口実だったのかもしれない。どこか微笑ましくて、・・・少し泣きたくなった。

いっそ会社を辞めたら思い切れるだろうか。・・・筒井君だってその方が。

ラックに座らせたサンタのうさぎに無意識に視線が流れた。テーブルの前から立ち上がり、縫いぐるみに手を伸ばす。柔らかい毛並みを撫でた掌をきゅっと握り締め。バスルームへ向かった。


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