黙って俺を好きになれ
洗面所で髪を乾かし、部屋に戻ると置いてあったスマホにラインが通知されていた。梨花だった。

“トーコの答えは出た?”

筒井君への返事は今日のはずだった。わざわざ気にかけてくれたその優しさが胸に染みる。本当なら相談した私から伝えるべきことなのに。

出口の前で止まっている足をしっかり前に踏み出せたら打ち明けたいと思った。不完全じゃない答えを。

パジャマ代わりのスェットの上からフリースパーカーを羽織り、パイプベッドのヘッドフレームを背もたれにやっと指を動かす。

“小暮先輩と付き合っています。今度ちゃんと話すね”

打ち込んだ文字には表情も熱もない。梨花は浮かれた報告に受け取るだろうか。送信するとすぐに既読マークが付いた。ややあって画面に現れた吹き出しの文字をじっと見入った。

“ボクはトーコの味方だよ。だれを好きになってもね”
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