黙って俺を好きになれ
彼女の仄かな笑みが浮かぶ。この恋がどんな結末で終わったとしても梨花は。何も訊かずに私の涙を拭って優しく慰めてくれるんだろう。

“ありがとう、好きになったことは後悔しないと思う”

キーボード部分を何度もタップし直し、()い交ぜの気持ちを凝縮して返した一文は、時間を置いたせいか既読にならなかった。

ぼんやり天井を仰ぐ。どれも失くさずに幹さんの傍にいる方法なんて探せるの。自分が傷付かずに済む道がどこかにあるんじゃないか。・・・私の迷いはひどく自分勝手だ。

深い溜息を漏らす。と。羽布団のうえに投げ出していた手の中でスマホが震えながら着信を告げる。咄嗟に梨花がラインの返事を直にくれた電話だと連想した。手元に目を落として呼び出し続ける画面に釘付けになった。

息を呑んだ、“筒井君”の三文字に。

心臓が変な音を立てて大きく小さく波打った。どうして。理由が分からなかった。だってもう。何を言われるのかと指先が強張る。でも。逃げて彼が余計に(ひず)んでしまったら。

大きく息を吐いてベッドの上に座り直し、断頭台に登る心境で応答した。

「・・・・・・はい」

『・・・よかった、出てくれた。うん糸子さんだ』

やんわり笑った顔が見える。・・・見えてないのに目の前にいるように。
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