黙って俺を好きになれ
驚いてもいた、そんな風に歯痒さを抱えてたなんて。棲む水が違うことも最初から割り切れてるんだと思っていた。私と違っていつも余裕があって。でも、人を好きになってままならないのは幹さんも同じ･･･？

おずおずと仰げば、底無しの眸が真っ直ぐに見下ろしている。

「俺の居場所はイトコがいるあの図書室だけだった。今も変わらねぇよ」

私のいる場所があなたの居場所。

「お前さえいれば俺は」

俺でいられる。

口の端を掠めた笑みは記憶の中でいちばん穏やかに見えた。




お店を後にしてマンションに着くまでのあいだ、車の後部シートで幹さんに躰を寄り添わせながら。ずっと頭を離れない言葉があった。

なってあげたい。

自分の中に根付きはじめたひとつの思い。

ただ二人の時間を重ねたあの頃のように。
私が、あなたの帰ってこられる場所に。



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