黙って俺を好きになれ
「本気なんだ?」

頷き返す。

「いつ辞めるの?」

「できるだけ会社の都合に合わせて夏くらい・・・かな」

「糸子の人生なんだから、糸子の好きでいいに決まってるんだけどね?」

徐々に尖った気配を薄め、言葉とは裏腹の深い溜息を吐いたエナ。難しい顔付きで少し黙り込んだあと、「あーもう、しょうがないっ」と自分に向けてなにかを吹っ切ったような声を上げた。

「今から筒井呼ぶから、全部話してスッパリ終わらせてやって!まだ少しは可能性あるかと思ってたけど、もうセンパイしか見えてないみたいだし、終わんないとアイツも次に行けないし」

テーブルの上に伏せてあったスマホを手にすると、エナは素早く指を動かし始める。送信音。間を置かず通知音。画面から視線を上げ彼女が言った。

「あと30分くらいで来るって」




心臓が大きく波打って。
突き破って出てくるんじゃないかと思った。

今度こそ。
壊れて、崩れて、跡形もなくなるんだろう。

好きだった、あの笑い顔が。
筒井君がくれたもの、ぜんぶが。



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