黙って俺を好きになれ
二人きりで残され内臓が今にも捻じ切れそうな心地がする。・・・遅かれ早かれ来るはずだったときが来たんだと、込み上げかけたものを飲み込んだ。

「後輩思いってコトにしときますかー」

わざとらしい言い様に、彼女の後ろ姿を見送った視線をゆるゆると戻す。そこには困ったように笑う顔があって。・・・泣きそうになった。私だったらできない。そんなに強くなれない。

筒井君がおどける。

「オレひとりじゃ食べきれないから糸子さん手伝ってよ。大丈夫、太ってもカワイイからー」

そういうキミは少し痩せたかもしれない。

「・・・うん。残すのもったいないね」

ぎこちなく笑み返せば、ふにゃふにゃの笑顔が咲いた。

「聞いてくださいよー、今日お客さんのとこ行ったらー」

箸を伸ばして関係のない仕事の愚痴をこぼすキミ。小さく笑って先輩の顔で耳を傾ける。お互いに何も触れず。今だけは。

ときどき目が合うと時間が止まる気がした。
・・・止まってほしかった。

叶うはずがないと分かっていながら。
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