黙って俺を好きになれ
「糸子さんのセンパイがその辺のヤクザとは別モノだって知ってる?」

畳みかけるように筒井君が言った。

秋津(あきつ)組って有名な暴力団、糸子さんも聞いたことあるでしょ。そこの六道(りくどう)会って二番目に大きいグループの幹部候補なんだよ。出世争いのど真ん中にいる、ね」

秋津組。ニュースでもよく耳にする。抗争や発砲事件と言えば櫻秀(おうしゅう)会かどっちかってくらいに。最近も騒がれてた。まさかそんな大きい組織で立場のある人だったなんて。

知らなかった。・・・ううん気付いていたかもしれない、幹さんの他を圧する空気に。だから何も訊かなかった、目を瞑ったままでいた。

自分にとって幹さんが幹さんであるかぎり、何者だろうと構わないと思っていた。だけど。目の前に落とされた現実は流してしまえるほど軽くなかった。鉄の塊になって足許を抉り、音も無くのめり込んだ。

「そんなヤツと一緒にいて、ほんとに糸子さんは笑って暮らせる?自分の親が巻き込まれるかもしれなくても?いつでもあの人が漫画みたいにカッコよく助けてくれる?」

筒井君は挑むように私を見据えていた。

「絶対大丈夫って言ってくれたら、糸子さんをこれ以上困らせない。好きな人が幸せならいいんで、もう」

まるで。見えない(やいば)を真っ直ぐ振りかざし。
< 169 / 278 >

この作品をシェア

pagetop