黙って俺を好きになれ
『乗せられるな。情につけ込むのもヤクザの常套手段だ』

強めに息を短く()いたあと、変わらない口調で続く。

『女ひとり背負(しょ)ったくらいでどうにもならねぇよ、お前の男をもっと買い被れ』

目の前にいたらきっと、強かな眼差しで見据えられてる気がした。心臓に空いた穴をあっという間に上から塞いでしまうくらいに圧倒的な。

『なにも心配しなくていい。黙って俺だけ信じてろ、・・・できるな?』

「・・・はい」

『いい子だ』

シニカルに口角を上げた表情が手に取るように。

幹さんは。言葉だけでさっきまでの覚束なさを一気になぎ払ってしまった。(なまくら)になる人じゃない、錆びついたりもしない。何があっても私を離さずに連れていく。

赦されないところまで。
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