黙って俺を好きになれ
狂おしいほど願い求めていたものがそこに在る。目に映ってるのに脳が咀嚼していかない、手足を動かさない。茫然と立ち尽くしていると助手席側のウィンドゥが下がり、運転席から低い声が聞こえた。

「・・・乗れ」

弾かれたように後部ドアに手を伸ばし、乗り込んだと同時に加速した車。前のめりになって山脇さんを問い詰める。幹さんが乗っていない。血の気が引いた。

「あのっ、幹さんは・・・?!どうしたんですかッ?!どうして電話に出られないんですかっ?教えてくださいっっ」

「・・・黙ってろ。俺は喋らねぇよ」

凄まれて一刀両断にされ、シートに身を強張らせた。怖じ気づきそうな自分を奮い立たせるように、膝の上で両手をぎゅっと握りしめる。

それでも。切れかかっていた糸の先が繋がった。目頭が熱く潤んだ。あれから5日。突然に奈落の底へと突き落とされ、這い上がれずに死んでいくのかと思えた。

どこに連れて行かれるのかも、幹さんに会えるのかすら分からない。それでも。車を降りることは考えられなかった。

絶壁に囲われた暗い地べたばかり見ていた。上を仰ぐのが怖かった。厚い闇に覆い尽くされて、希望もなにも無残に打ち砕かれるのが。

・・・小さな点が見えた。薄く光って。見失わないように懸命に目を凝らす、今はただ。
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