黙って俺を好きになれ
車はバイパス道路を走り、市街地を抜け。いつも幹さんの腕の中にいるから外の景色を注意したことがなかった。今まで通ったことがあるのかまるで見当もつかない。経路案内の標識でどの方面に向かっているかだけ。・・・うろ覚えだけどマンションがある街とは別方向らしかった。

明日が土曜日でよかった。もしも朝までに帰れなかったとしても迷惑をかける先がなくて済む。・・・会社を出るまでは、ひとりきりで打ちひしがれる耐えがたさに、すべての休日を抹消したいくらいだったのに。

沈黙が続く中、左折した車は煌煌とした場所に駐車した。到着したのかと緊張したのも束の間、山脇さんは何も言わずに一人で車を降りた。スモークガラス越しに大手コンビニチェーンだと分かって力が抜けた。

腕時計を見やれば小一時間経っている。目的地までどれだけなのか。10分ほどで戻った山脇さんからは煙草の匂いがして。幹さんとは違う、とぼんやり思った。

「おい」

不意に前を向いたまま彼が、小さいレジ袋を私の方に突き出した。慌てて受け取れば温かいお茶のペットボトルとホカホカのあんまんが一つ。

「ありがとう・・・ございます」

驚きながらお礼を言い、遠慮がちにいただく。普段なら帰って夜ご飯の支度にかかっている頃。

冷酷なのか優しいのか、敵なのか味方なのか。どこか計りかねる人だった。
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