黙って俺を好きになれ
「・・・・・・分かった風な口を聞きやがる」

低く凄まれたけどそこまで辛辣でもなかったような。

それきり山脇さんは沈黙を貫き通した。どこかの裏通りでエンジンを切るまで。




促されて車を降りる。街灯も少なく、ところどころの窓灯りと電飾看板で雑居ビルがひっそり建ち並んでいるのがうかがえた。

道幅は対向車がすれ違えるくらいはあって、人けはほとんどない。小さな会社が集まっているんだろうか。

「ついて来い」

ねずみ色ぽかった建物入り口の集合ポストは8つほど。表札にはアルファベットが目立った。見知らない場所に連れて行かれる不安と恐怖が背中に貼り付いている感覚。けれど。山脇さんは幹さんを裏切らないと不思議と思い込めている。

静寂にリズムの違う靴音が響く。コンクリートの階段を3階くらいまで昇って左奥に。薄暗い突き当たりのドアの前に立った強面の男性が二人、山脇さんに向かって一礼した。
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