黙って俺を好きになれ
「・・・梶浦の叔父貴が来ました」

黒ずくめで坊主頭の人が、しゃがれ声で低く言ったのが聞き取れた。記憶にある名前。山脇さんは何も応えず、金髪でオールバックのもう一人が周囲に目を走らせてから鉄製の扉をゆっくり開く。

開ききる前にドアに貼られたプレートの文字が読めた。“脇田(わきた)整体院”。・・・もしかしてここに幹さんが?診療所の類いじゃないことに戸惑いつつ、警護係らしい二人に小さく会釈をして山脇さんの後を追う。

受付と待合室とおぼしき、長椅子が置かれただけの縦長のスペースがあり、生成り色のカーテンで仕切られた入り口が一つあった。誰もいないのか断ることもなく彼はそこをくぐり、施術用ベッドが二台並んだ室内を横切って灰色のドアに手を伸ばす。

ほこり臭いただの物置に見えた。短い蛍光灯が一本、申し訳ない程度に天井から段ボールや何かの機材を仄暗く照らす。まさかその奥に部屋があるとも思わず、足を踏み入れて一転した目映さに眩んだ。

広さは6帖あるかないかくらい。クリーム色の天井と壁、床はグレー。ドラマで見た病院の個室仕立てのようで。床と同色の厚地カーテンが下がった腰窓側にテーブルとイス、反対側の壁際には洗面化粧台とクローゼット。中央には医療用ベッドが設えられていた。
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