黙って俺を好きになれ
黒髪の頭が見えた。山脇さんが躊躇なくベッドに近付いていくのを、吸い寄せられるように私も反対側に回った。入り口の両脇にも二人の警護がいたことなんて目に入ってなかった。

点滴スタンドに吊るされた輸液パックからチューブが伸び、布団の上に横たわった腕に繋がっていた。うっすら無精ひげが生えた顔は、血色が悪いほか傷は見当たらない。でも静かすぎる呼吸、起きてくるのかと思うくらい微動だにしない布団の下の手足。

「・・・つかさ、さん・・・?」

つい呼びかけていた。眠っているというよりまるで魂がここにない気がして。見開いた目で向かいの山脇さんを仰ぐ。

「幹さん、意識ないんですか・・・?」

「・・・このまま目ェ覚まさねぇなら葬式の準備だ」

抑揚のない低い呟き。

「うそ」

・・・・・・死ぬ?幹さんが?私を置いて・・・?

ない。真っ先に思った。あるわけない。絶対にない。

指先からバッグがすり抜け、床に鈍い音を立てた。

「そんな、・・・だって、なんでもっと大きな病院に運ばないんですか・・・?!何やってるんです?!幹さんを死なせる気ですかッッ」

込み上げて()ぜたのは怒りだった。相手にかまわず激情を他人にぶつけたのは初めてだった。
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