黙って俺を好きになれ
7対3くらいの割合で少なめな女子社員は、先輩も後輩もいくつか出来あがってる輪に溶け込んで、それなりに楽しんでる様子。見回すとエナは、富山課長や部長達の輪っかの中で物怖じせずに朗らかな笑顔を振りまいていた。自分には到底できないから素直に尊敬する。

それにしても早く終わってほしい、その一念。楽しめる要素は一つもないし気疲れしかしない。
でも会計を済ませるまでが私の仕事だ。2時間の貸し切り設定だから遅くても9時にはお開き、あと少しの我慢。

自分の席に戻ってきて、ピッチャーからウーロン茶をグラスに注ぐ。すっかり冷めてる春巻きに箸を伸ばし、もそもそ食べていたら「羽坂さーん」と頭の上から声がした。

「まーたこんなとこで一人寂しく食べてるー」

筒井(つつい)君」

ネクタイにワイシャツ姿で、若干ろれつが怪しい彼。エナと同じ第二事業部の、ひとつ後輩君。ときどき三人でご飯を食べに行くくらいの間柄ではある。

「せっかくなんだから、あっちで一緒に飲みましょーよぉ」

ふにゃりと笑って私を見下ろし、何がせっかくなのかは全く意味不明だけど。

「私は幹事だからここにいないと。・・・筒井君は向こうに戻ったほうがいいんじゃないかな」

なけなしの愛想笑いを浮かべ遠回しに断った。
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