黙って俺を好きになれ
三度目の縁があるかは時の運だと思うし、この際だと思いきって訊ねてみる。

「あの辺りはよく通るんですか?」

「たまにだ。馴染みの店があるんでな」

まぎれもない奇跡的な偶然だったらしい。生きていればこういうこともあるんだと、妙な悟りが開けそう。

「・・・家を継いだんですね」

「ああ」

躊躇いがちだった私に返った即答。

あの頃は『生まれ』という理不尽さに抗っているように見えた。諦めたのか納得したのかそれは計り知れないけど。先輩がそうと決めたのならそれでいい。変に荒んでもないあなたに再会できただけでも良かった。・・・心から思う。

「いずれ組を継ぐ。まだ先の話だ、親父もピンピンしてるしな」

組を継ぐ、・・・組長になるって意味なんだろう。こうして隣りに座っていても、同じ空気を吸っていても、この人と私は生きている世界が違うのだ。流れる時間が違うのだ。実感させられる。
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