黙って俺を好きになれ
「お前がもらわれる気でいたとは思わなかったがな。・・・筒井尊《たける》だったか。俺が挨拶したがってたと伝えておけ」

薄く口角を上げた幹さんの眸の奥に、不穏な気配が揺らめいて見えた。

・・・・・・・・・もらわれる?はたと思い出す。幹さんの意識を覚まそうと必死になったあまり口走った気が。・・・・・・『筒井君にもらわれちゃってもいいんですか』って。思わずしどろもどろになった。

「あの・・・あれは。言葉のあやなので、その、なんでも・・・ないです」

「ボーヤはそうは思ってないんだろうが」

言葉に詰まると、伸びてきた指先がどことない圧を放ちながら私の髪を撫でる。

「近いうちに(ケリ)を付ける。・・・黙って会うなよ?」

「でもこれは私の」

「俺が付けると言わなかったか」

問題です、と言おうとして一段低くなった声。刺すような眼差しに射貫かれ、あなたを真っ直ぐに見ていられない。
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