黙って俺を好きになれ
そのあとは私の高校生活や卒業後をあれこれ質問されては答え。ちょうど父が倒れて大学進学をやめたことや、あの頃なりたかった司書は諦めたこともぽつぽつ話す。

「今は父も元気で仕事もしてますけど、一生付き合っていく病気ですし。早く自立するには普通の就職の方がいいと思ったんです」

「何だろうとそう思い通りにはいかねぇだろう。・・・ま、自分で選んだものは粗末にするな」

小暮先輩は朝礼の挨拶くらいの温度で言い、「親は大事にしとけ」とついでのように付け足した。学年が一つ上なだけなのに、なんだか先生に諭されてる気分。

あの頃も同じ10代と比べたら大人びてたと思う。冷めた目をして、どこか周囲を見下した剣呑さを漂わせることもあった。送別会のあとで再会したときもひと目で思い出せなかったのは、風格というか空気が重厚で、ちょっと歳上に見えたせいだったかもしれない。



ほとんど私の話ばかりで、先輩は自分のことは口にしないまま。気が付いたら、教えていないのに自分のアパートの前に車が横付けされていた。どうして知ってるのかと訊こうとして飲み込む。知らない方がいいこともある気がして。

「送るだけで悪かったな。次は必ず美味い店に連れてってやるから楽しみにしてろ」

「いえ、送ってもらっただけでも本当に助かりました、ありがとうございました・・・!」

「お前といるのは昔から悪くないからな、懲りずに付き合え」

「・・・はい」

不敵そうに口角を上げた先輩に私も笑み返す。
ドアを開こうとインナーハンドルに手をかけた刹那。

「イトコ」

名前を呼ばれて顔を振り向けた。
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