黙って俺を好きになれ
ドルチェのティラミスに辿り着くまで筒井君は、ふやけた笑顔で自分の学生時代の話や家族の話を面白おかしく聞かせてくれた。意識したことなかったけど、わりと話上手だった。

「ねー糸子センパイ」

「はい?」

濃厚なマスカルポーネを味わいながら、半分(そら)で返事をする。さっきまでの話の続きだと思って。

「オレと付き合ってくれませんか」

「どこに?」

言葉の額面だけ受け取り何も考えずに。

「じゃなくて。オレのこと好きになってください、糸子さん」

その時やっと、ティラミスから視線を上げて筒井君を見た。耳にした言葉が聞き間違いかを確かめるために。

今なんて言ったの?

そう言おうとして。出てこなかった。

ふにゃふにゃした笑いが一切消え、別人かと思えるほど凜とした顔付きで。彼が私を見据えていたから。
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