黙って俺を好きになれ
彼の言っている意味は理解しているつもりだ。どう気持ちが動くのかは誰にも分からない。

でも。

小暮先輩の顔が浮かんだ。

あのキスが心の奥底に貼り付いたまま、ずっと剥がれない。

『好き』だと言われてもない。

気まぐれかもしれない。

・・・でも。

私は視線を俯かせて答えられずにいた。時間をかければ筒井君を好きになるんだろうか。分からなかった。描ける気がしなかった、そんな未来を。

「それともセンパイ、好きな人がいる?」

一瞬。息を呑んだ。・・・そして首を小さく横に振った。チガウ。自分に言い聞かせるように。

「そっかー」

なにかを吹っ切ったような明るい声に、躊躇いがちに彼を見やった。

「じゃあオレにもチャンスありってことでー。これからバンバン誘いますから、3回に1回はつき合ってくださいよー、糸子センパイ?」

エスプレッソをくいっと飲み干し、ふにゃりと笑い返した筒井君。

「どうしてもダメだったら、きっぱり諦めてカワイイ後輩に戻るんでー。変にかまえたりー、避けたりしたらオレ泣きますよ-?」


最後の最後まで主導権を握られたまま。どうにも頷くしかなかった私だった・・・・・・・・・。




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