黙って俺を好きになれ
知ってる。次期組長。・・・先輩が言っていたから。

「止める権利があるかないかで言ったらナイでしょうけど、止めますからね?オレが泣かすならともかくヤクザの男に泣かされるなんて、クソむかつくじゃないですか」

胸に突き刺さる。
・・・泣きたくなる。

あの人を好きになるのは罪でしかないんだろうか。
誰にも許してもらえない“悪”なんだろうか、生きる世界を選べなかっただけのあの人は・・・!

「そんな顔するのもオレのためじゃないですもんね。可哀相だなー、オレ」

おどけて子供をあやすように私の頭を軽く撫でる。

「言っててもしょうがないから、一番好きになってもらえるようにガンバリますかー。あ、糸子さんに関しては雑草魂で挑めってエナさんから言い渡されてるんでー、簡単には折れないっすよー?」

ふにゃりと笑った筒井君は、シフトを入れ替えるとハンドルを切って車を発進させた。

「せっかくだしお土産買って帰ろっか?やっぱ干物とか定番でしょー」

「・・・うん」

「じゃあそれ買ってー、夜ご飯は糸子さんちでご馳走してくださいよー」

「・・・うん」

「やった!」

無邪気なのかそうじゃないのか。彼に釣られて小さく笑い返す。
未だ音もなく広がり続ける波紋に、胸の奥を揺らされながら。




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