黙って俺を好きになれ
冷たい夜風に首を竦め気味にアパートに戻ってきて、ここまで送ってもらったお礼を言おうと玄関の鍵を開ける前に筒井君に向き直った。

「あの」

「もう少しだけ一緒にいちゃダメですか?」

ふやけた甘え顔に先回りされ、惑って視線が泳ぐ。

「心配しなくてもオオカミにはなんないし、コーヒー一杯だけごちそうしてよ糸子さん」

狼とは親戚の犬耳と尻尾はもう生えてるけど。内心で小さく息を吐くと中に招き入れた。映画代も出してもらっちゃったし。・・・と、もっともらしい理由を結び付けながら。




「ねぇ糸子さん」

ラグの上にあぐらを掻き、緊張感もなく寛いだ筒井君が思い付いたように小首を傾げる。

「オレのこと、ちょっとくらい“男”に見えてきた?」
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