黙って俺を好きになれ
瞬間。小さく跳ね上がった心臓。狼狽えて目を逸らした。

「・・・そっか」

何も答えていないのに見透したように笑んだ気配。「じゃあ、もうひと踏ん張りしますかー」

私はそのまま視線を落とし、マグカップを両手で包み込む。

後輩以外の何者でもなかった彼がいつの間にか。着ぐるみを着たり脱いだり、大型犬ぽい男の子に見えてる。

ふにゃふにゃ頼りないのかと思っていたら、やんちゃっぽい一面もあったり、ときどき歳下に見えない笑い方だったり。

今まで知りたいと思うこともなかった彼が見えてる。・・・と思う。

「糸子さん」

やんわりした声に、半人分空いた隣りを仰ぐ。
目が合って筒井君が手を伸ばす。
指が黙って私の頬に触れたのを。

どうしていいか分からなかった。
振り払うべきだったのか。

キミを傷付けたくなかった。
キミに嫌われるのは恐かった。

「・・・逃げないとキスしちゃうよ」

どこか泣きそうに見えた笑い顔が。目の前にあった。
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