黙って俺を好きになれ
そのときもし着信がなかったら。



未来さえ変わっていたのかもしれない。




テレビからじゃなく響き渡ったリズミカルなメロディに、筒井君の動きが止まった。

「・・・電話でしょ?」

体を引くと、何もなかったようにふにゃりと笑む。

「あ・・・うん」

早鐘を打ち続けてる胸の鼓動。あと数秒おそかったなら。

テーブルの端で鳴り止まないスマホをぎこちなく手にし、画面に表示されている名前に息を呑んだ。偶然か、神さまの気まぐれか。・・・それともこれが運命だとでも。

「ちょっと・・・ごめんなさい」

彼を見もしないで声が少し上擦った。内臓が奥から引きずり出されてくるような動揺を必死に押し隠し、立ち上がって窓の方に少し距離を取り背を向ける。

「はい、・・・羽坂です」

『イトコか。今どこだ』

友達だったら“久しぶり”とか“元気”で始まるのを、時間経過を気にしない第一声が小暮先輩らしい。部屋にいることを伝えると、見えていないのに人が悪そうに笑んだあなたの横顔が浮かぶ。

『あと30分ほどで着く。少しつき合え』

それまでに出かける準備をしろという意味に受け取り一瞬、答えを迷った。先輩はそれを流す人でもなかった。

『・・・なんだ?用事でもあるのか』

「いえ・・・そういう訳じゃ」

『お前の顔が見たくて早めに切り上げてきたんだ、焦らすなよ』

低いのに仄かな甘さが滲む声。

『じゃあ後でな』

私の返事は待たずに通話は切れた。
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