交われなかった君との交わり方
ガラ。
教室のドアが開いた音。
と共に誰かが入ってきた。
誰か、それは、
「…っ」
────「ちなみに今も好きだよ」
松本くん。
あの時言われた言葉を思い出して、ボッと火がついたように顔が赤くなる。
いやいや、告白断ったのは自分でしょ。
────「お前に割いた時間、返してくれよ!」
「っ…」
頭の中に響いたその言葉。
振り払うかのように頭を振る。
松本くんは、私の事なんて見向きもせず、自分の席に着いた。
こんなんで私の事好きって…分かんないよ。
ん?いや、いつから好きになったのか聞いてなかったな。
じゃあ今はまだ好きになってないのかもな。
入学して間もないし。
きっと、眼中にもないんだろうな。
何がきっかけで好きになってくれるんだろうか。
告白、断ったのは自分だけど、ちょっと気になる。
じっと松本くんを見つめてみるが、やっぱり私の事なんか興味無いみたい。
まぁ、いいか。この3年間の高校生活も、きっと面白くもないつまらないものになるんだろう。
何事もなく、何にも参加せず、教室の自分の席でぽつんと過ごす日々になるんだろう。
思えば、いじめが無いだけましだったな。
そう考えると、このクラス、なんて良いクラスなんだろうか。
それにしても、なぜ私は過去に飛ばされたんだろうか。
きっと何か、理由があるはずなんだけど。
それが分からない。
松本くんは先生が来るまでの間、友達と話してる。
友達、いたんだ。
て、失礼な事だけど。
だって実際のとこ、気になってた存在ってだけで、ずっと見てたわけじゃないから。
こう考えると、友達がいる松本くんと友達は郁恵ぐらいしかいない私なんかじゃ、似ても似つかないんだな、と。
その時、先生が来て、クラスメイトの皆自分の席に着いていく。
なんで好きになってくれるんだろう。
とにかく、私は何があろうと断り続ける。
彼の、時間の無駄にならないように。
「入学してもう2週間が経つし、そろそろ席替えしようと思うけど、どう?」
担任の先生のその提案で、皆が賛成する。
え、ちょっと待って…。
なんか、嫌な予感がするんだけど。
ていうか、そういえばこんな展開だった気がする。
席替えして、そして…。
「……」
やっぱりこうなるんか。
隣の席になったのは。
「…松本くん」
「呼んだ?」
「あっ!いや!呼んでない!」
ぼそっと言ったつもりが、相手に届いてたらしく、反応した松本くん。
これが、まさかの初めての会話…。
「そう」
「あ、うん…」
どんな顔して会話したらいいのか分かんない。
こんな短い会話でさえ、ドッと疲れが押し寄せてきて、机に突っ伏す。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だから!」
私は机に突っ伏したまま、手で隣にいる松本くんを制す。
とにかく、好きになってもらってしまうようなイベントをことごとく回避しなければ。
そしてこのまま卒業して、成長して、同窓会にも行かない!
そうすれば松本くんに告白されることもない!
私の平穏な日々は取り戻されるというわけだ!
それからというもの、私はとにかく松本くんを避けた。
避けて、避けて、避けまくった。
そのおかげで、この日まで来た。
「卒業証書授与式。1組、有原咲良」
「は、はい!」
私はパイプ椅子から立ち上がり、決められた場所を歩いていく。
はぁ〜。
ついにこの日か。
思えば長い日々だった。それにしても、所々変わってしまったところがあった。
やっぱり、未来は変わるというものか。
文化祭実行委員を松本くんと一緒にさせられそうになった時が一番のピンチだったな。
まぁ、それも結局、一緒になることは無かったんだけど。
私は、卒業証書を受け取り、また自分のパイプ椅子に座る。
ちらりと松本くんが座ってる方を見やる。
松本くんとは1、3年と一緒のクラスになった。
しかし、その間私を好きになったようなのは見受けられなかった。
よし、このまま無事に終われば。